姪っ子（４歳）と会うんだけど、なにすれば良い?

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車いすで絞り出した「大ばか」　サリンと闘った浅川さん

1995年3月に起き、13人が死亡したオウム真理教による地下鉄サリン事件から20日で25年。多くの市民を無差別に殺傷した未曽有のテロの巻き添えになり、重い後遺症と闘ってきた浅川幸子（さちこ）さんが10日、サリン中毒による低酸素脳症で死去した。56歳だった。
幸子さんの兄・一雄さん（60）らが19日、都内で会見して明らかにした。一雄さんは「つらい、悲しいだけではいけない。幸子が悲しまないように前向きに生きたい」と語った。
一雄さんによると、東京近郊の病院に入院していた幸子さんと最後に会ったのは先月23日。一雄さんに孫ができ、その声の録音を聞かせると、硬直した右腕を少し顔に近づけ、体を反るように力を入れてうれしそうにしたという。
だが、その後、容体が急変。4月には幸子さんがかわいがっていた一雄さんの長男・真至（しんじ）さん（31）にも子どもが生まれる予定だったといい、一雄さんは「その声を聞かせてあげたかった」と言葉を詰まらせた。
事件は95年3月20日朝に発生。当時31歳でスーパーに勤めていた幸子さんは、勤務先の研修に行くために乗った丸ノ内線の車内で巻き込まれた。心肺停止状態で倒れているところを発見されて一命を取りとめたが、医師から寝たきり状態が続くと告げられた。
「奇跡は起こらないのですか」。母・わささん（95）が泣きながら尋ねたが、医師から返ってきたのは「生きていることが奇跡」との言葉だった。
事件から10年経ったころから、一雄さんとともに実名で取材に応じ、被害を訴え始めた。2009年には、丸ノ内線でサリンをまいた広瀬健一・元死刑囚の判決を聞きに、車いすで一雄さんと最高裁へ行った。「大ばか」。記者会見に出た幸子さんはそんな言葉を絞り出した。
病院でリハビリを重ねた後、一雄さん家族らが自宅で介助したが、17年10月にけいれんを起こして入院。食事ができなくなり、胃ろうで栄養をとっていた。
遺影には、事件前にディズニーランドで撮った写真を選んだ。一雄さんは写真を見ながら「みんなで一緒にごはんを食べたり、どこかに行ったり、普通に生活していることが本当はとても楽しいことなんだろう」と語り
「何の落ち度もなく、恨みを買ったわけでもないなかでこの事件にあって……」と悔しさをにじませた。
教団の後継団体・アレフなどは今も活動を続ける。一雄さんは「幸子のことを心のなかで願ったように、何かに救いを求めるのは人間であればあること。ただ、過去にどういうことがあったのか改めて考えてほしい」と話した。
代理人の中村裕二弁護士は「サリン中毒が原因であり、事件の犠牲者は14人になった。壮絶な姿をさらけ出してでも訴えたいことがあった。幸子さんが何を伝えたかったのか。みんなに与えられた大きな宿題だと思っている」と語った。
「幸子は優しい子だったなあ」
オウム真理教による地下鉄サリン事件で被害にあい、約25年にわたり後遺症との闘いを続けてきた浅川幸子さん（56）が10日に亡くなった。幸子さんの兄・一雄さん（60）が報道機関に寄せたコメント全文は以下の通り。
◇
1995年3月20日、私の妹・浅川幸子は地下鉄丸ノ内線で地下鉄サリン事件の被害をうけ心肺停止の状態でみつかり、いつ死んでもおかしくないと言われ、それから約25年間寝たきりの状態でした。
そして今年2020年3月10日、午前8時25分ごろ会社にいた私の携帯に「妹の呼吸がおかしいので病院に大至急来て欲しい」と連絡が来ました。私は家内と待ち合わせ、病院へ向かいました。とてももどかしい時間でした。
幸子の入院している病室に案内していただいた時には、心肺停止で亡くなっていますと言われました。
私は幸子の耳元でこんなことを言いました。
「幸ちゃん、25年間よく頑張ったね。お兄ちゃん、自分が頑張って下さいとまわりの人から言われてつらかった思い出があるから幸ちゃんには言わなかった。でも幸ちゃんはリハビリ、さまざまな困難に打ち勝って笑顔もみせてくれたよね。
だから幸ちゃんにはリラックスしてオウムなんか忘れよう、楽しくいこうよ、って話したよね。でもお兄ちゃん、今は言うよ。
25年間本当に、本当に頑張ったよね。お疲れ様。でも残念なことがある。つい1カ月ほど前に姪（めい）っ子の赤ちゃんの産声を携帯の動画で聞いてもらったよね。4月には甥（おい）っ子の赤ちゃんが生まれる。せめてそれまで生きていて欲しかった」