哲学者「どうせ数年もすれば死ぬ老人の命を守るために若者の人生を犠牲にしてもよいのか？」

平均年齢81歳の新型コロナの死者1万5000人が、ほかの60万人の死者よりも、私たちの共感や関心に値するとしたら、それはなぜなのでしょうか。

人は権利と尊厳において平等です。しかし、すべての死が同等の価値ではないのです。20歳や30歳で死ぬことのほうが、60歳を過ぎてから死ぬことより悲しいのです。
そして今回のパンデミックでは死者の95％が60歳以上だったわけです。

若者がこのことをあまり言おうとしないのは、年長者に冷淡だと見られなくないからなのでしょう。しかし、私は68歳なので言えますし、言わなければいけないとも感じています。

私が心配なのは、70代突入寸前の自分の健康よりも、この国の子供たちの未来、それから子供たちに残していく債務です。

もちろんロックダウンがいけなかったわけではありません。おそらくそれは必要だったのでしょうし、私も遵守しました。ただ、経済的な影響がきわめて深刻になることも、とりわけロックダウンの期間を決めていく上では考えなければなりません。
──健康が損なわれかねないときに経済の話をするのは不適切だと言う人もいます。

それは間違いです。貧困も人の命を奪うのです。奪う人命の数では貧困のほうがウイルスよりも上です。
毎年、栄養失調で死ぬ人の数は900万人で、そのうちの300万人が子供です。

仮にいま迫りつつある経済危機のせいで、この数がたった10％増えるのを想像してください。90万人がウイルスに感染しなくても苦しんで死ぬことになるのです。
フランスでは失業率が少しずつ改善していたのですが、これから経済が危機に陥ったら、それが社会や政治、人々の暮らしに与える損害はどれほどになるのでしょうか。