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父の死の瞬間もシンナーを…薬物アルコール依存症を語る

　「本人の意志が弱いから」などと、いまだ偏見にさらされやすい薬物アルコール依存症。この病気から回復した渡邊洋次郎さん（44）は「特別な人たちだけの問題ではない」と訴える。渦中にいる人の生活を支えながら、ひどい自傷行為や精神科病院に入退院した経験など、壮絶な過去を大学などで語り続ける。

　両腕を覆うケロイドは、たばこの火で何度も焼いた痕だ。少年の時から、ひどい自傷行為を重ねた。その過去をさらし、大阪市の依存症者の回復施設で生活支援にかかわり、大学での出前授業など啓発活動に力を注ぐ。「偏見にさらされやすい病気だけど、特別な人たちだけの問題やない」

　存在感のない自分でも「強く大きく見せられる」と中学で非行に走った。少年鑑別所にいた16歳の時、危篤の父に謝れず、死の瞬間もシンナーを吸った。ホストになって酒に溺れ、20歳でアルコール依存症と診断された。以後10年間、酒と薬物のせいで精神科病院への入退院は48回に及んだ。

　転機は33歳、窃盗罪などで服役中、錯乱して移された独居房で訪れた。「目の前に突然、心臓が現れた。懸命に鼓動を打ち、生きようとし続けてくれてきたと気づいた」。価値がない人間だと自分を痛めつけてきたが「そのまま受け止め、大事にしたい」と泣いた。

　酒と薬物をやめて11年。2年前に介護福祉士の資格を取り、通信制高校を今春卒業した。自助グループで国内外の仲間と交流するが今も眠れずに迎える朝もある。

　昨年出版の「下手くそやけどなんとか生きてるねん。」（現代書館）の題は、父の墓前でわき出た言葉から。「『もう無理や』と人生を投げ出した、16歳の自分に届けたい」と初めて長文に挑んだ。