【東京】口元彩る“江戸文化”　浴衣や足袋の老舗、夏用マスクに匠の技

6/26(金) 13:07
産経新聞

口元彩る“江戸文化”　浴衣や足袋の老舗、夏用マスクに匠の技
江戸時代から続く呉服店「竺仙」の夏用マスク。盛夏用の浴衣地を使い、和裁士が手縫いで仕上げる＝東京都江戸川区
　浴衣や足袋など江戸時代から布地を扱ってきた都内の老舗が、夏場の新型コロナウイルス対策に一役買おうと、マスクの生産に乗り出している。受け継がれてきた染めや縫製の伝統技術をいかし、見た目も涼しく、つけ心地のいい品をそろえた。和装に縁遠い人も、生活必需品となったマスクを通じて、江戸の粋な文化に触れられる機会となりそうだ。

【写真】手作りの夏用マスクが店頭に並ぶ

　透け感のある薄絹に、深みのある紺色が映える。涼しげな高級浴衣地がマスクの形に整えられ、和裁士の手で仕上げられていく。

　江戸時代後期の天保１３（１８４２）年に創業した呉服屋「竺仙（ちくせん）」（東京都中央区）では、５月下旬から通気性のいい浴衣地で作った夏用マスクの販売を始めた。「注染（ちゅうせん）」という伝統技法で染めた浴衣の見本布でマスクを作ったが、好評を博して完売に。いまは７月以降の販売を目指し、薄くて軽い「絹紅梅（きぬこうばい）」と呼ばれる反物をつかったマスク作りに力を入れている。

　江戸小紋の染色にも使われる「しごき染め」という手法で染められた「絹紅梅」は、絹地に太い綿の糸が格子状（こうしじょう）に織り込まれており、独特の張りがある。

　マスクの中央と周囲はミシン縫いだが、ゴムを通す両端は、肌あたりをよくするために、縫い目の糸が表に出ない「くけ縫い」という和裁独自の技術で仕上げる。布の特徴を把握している熟練の和裁士だからこそできる仕事だ。

　竺仙の小川文男社長は「マスクも衣類と同様、ファッションアイテムになりつつある。季節に合わせた素材で、おしゃれを楽しんでもらえたら」と話す。

　江戸時代、安永年間（１７７２～８１年）に創業し、いまも歌舞伎役者や能役者らが愛用する足袋を作り続ける和装雑貨の老舗「大野屋總本店」も、ガーゼや麻素材で夏用マスクを手掛けている。

　コロナ禍で歌舞伎など伝統芸能の公演が中止となり、足袋の需要が減る中、マスク不足に貢献しようと春から生産を始めた。

　気温上昇に伴い、通気性を改善するなど試行錯誤を重ね、サイズも乳幼児用から５種類そろえた。

　「足袋生産で培った曲線を縫う技術を生かし、顔になじむ形にこだわった」と福島茂雄社長。歌舞伎座にも近い東京都中央区の店舗には、さまざまな色柄のマスクが店頭に並び、関係者の間でも評判になっているという。

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