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無防備の自閉症者を射殺した警察官　抗議デモは中東でも

エルサレムで5月末、無抵抗のパレスチナ人男性がイスラエルの警察官に射殺される事件があった。亡くなった男性は自閉症を抱え、武器は持っていなかった。米国での黒人男性死亡事件との類似性もあり、警察への抗議の声が広がっている。

　殺されたのは東エルサレムに住むイヤド・ハラクさん（32）。5月30日朝、エルサレム旧市街にある特別支援学校に歩いて向かう途中に事件は起きた。

　学校のすぐ近くで、ハラクさんは2人の警察官に「止まれ」と呼び止められた。自閉症で他人との会話が難しいハラクさんはパニックになり、走って逃げ出した。

　特別支援学校の教師が近くでその様子を目撃していた。警察官は空へ向けて発砲し、後を追った。教師は「彼は障碍者です。障碍者なんです」と叫んで止めようとしたが、警察官は「テロリストだ」と言ったという。

　ハラクさんは大きなゴミ箱の裏に逃げ込み、うずくまった。追いついた警察官はその胸に、2発の銃弾を撃ち込んだ。上官が制止したのに、若い警官が発砲したという報道もある。

　地元紙によると、警察官は付近にテロリストがいるという情報を受け、ハラクさんが手に銃のようなものを持っていると疑ったという。しかし、ハラクさんの手にあったのは、感染防止のための黒い手袋とマスクだった。

　遺族によると、ハラクさんは4歳の時に自閉症と診断された。家族以外と会話することが難しく、家でアニメを見たり、植物を育てたりすることが好きだった。「知能は4歳児くらい。でも今の学校は環境が合い、通うのを楽しみにしていた」と母ラナドさん（58）は振り返る。
事件当日、時計が読めないハラクさんは夜明けを待って朝6時ごろに家を出て、いつも通り1人で学校へ向かった。新型コロナウイルスでの閉校が続き、「いつ学校が始まるの」と毎日のように母に尋ねていたという。
事件があったのは、待ち望んだ登校が始まって3日目のことだった。学校では調理補助の仕事を学んでいたという。

　ハラクさんの死は、警察への抗議のうねりを巻き起こした。その波はパレスチナにとどまらず、イスラエル各地にも広がっている。

　遺族の自宅にはパレスチナ人だけでなく、イスラエルに住むユダヤ人も多く弔問に訪れた。「抗議デモに参加してきた」「我が家にも自閉症の子がいる」――。政治的な対立を越え、ハラクさんの死を悼む人たちの姿が絶えない。

　パレスチナ人がイスラエルの警察官や兵士に殺される事件は珍しくない。そのたび、パレスチナでは非難が巻き起こってきた。

　しかし、今回のようにイスラエル各地でも抗議デモが繰り返されるのは異例だ。無防備な男性を一方的に射殺した警察の行為は、政治対立を踏まえてもなお、度を越したものだと多くの人が考えた結果だとみられる。

　抗議運動の中では、米ミネソタ州ミネアポリスで白人警官が黒人男性の首を圧迫して死亡させた事件との共通性を訴える声も目立つ。「黒人の命は大切」という米国デモでのメッセージになぞらえ
「パレスチナ人の命は大切」と書いた紙が抗議デモで掲げられた。SNSでは、死亡した2人の顔を並べて「二つの国、似た制度」と書かれたイラストが拡散した。

　事件を受け、イスラエルのガンツ国防相は「事件について残念に思う。家族と悲しみを分かち合う」と語り、迅速に調査を進める意向を示している。