「夜の街言われるけれど…」 歌舞伎町のホストたちがオンラインで歌会　俵万智さんらが選者

〈いま不安なのは変化で欲しいのはワクチンよりも君だけなのに〉。コロナ禍で客足が戻りきらない東京・歌舞伎町のホストたちが、月1回ほどのペースで、オンラインの歌会を開いている。感性を磨き接客に役立てる狙いもあって続く会は、鋭い言語感覚を感じさせる短歌が飛び交い、「夜の街」の現状や、どこか切ない日々の仕事が浮かび上がる。（松崎晃子）
　開店前の夕方、パソコンの画面上に、約10人のホストたちが顔をそろえる。歌人の野口あや子さん（34）＝名古屋市＝や、俵万智さん（58）ら選者が順番に、彼らの歌を読み上げる。
　冒頭の歌を詠んだのは、大崎愛海（なるみ）さん（33）。口説き文句で結んだホストらしい歌に、接種が進むワクチンという言葉が今を映す。「頭では打った方がいいって分かってるけど、変化について行けない人もいる」と大崎さん。選者の1人で歌人の小佐野弾さん（38）は「今しか生まれない歌。時代を記録する歌として残る」と絶賛した。
　ホストの1人は、仕事後の光景を詠んだ。
〈夜の街言われるけれど知っている夜から朝に変わる景色を〉
　女性とのやりとりを思わせる作品もあった。

〈「今日は無理」わかってるわよそれくらいだけど隣の枕が泣くの〉
　発表される歌は事前に知らされており、参加者はそれぞれ、良いと思う歌にあらかじめ票を入れてある。集計された点数順に、作者は背景を語り、批評しあう。
　歌会のきっかけは2018年夏、歌舞伎町の書店で開かれたイベント。ゲストのホストが短歌を詠む企画があり、作歌を続ける構想が持ち上がった。ホストクラブを経営する手塚マキさん（43）が系列店に呼び掛け、会が始まった。メンバーは代わりつつ、3年続く。
　「もてなすプロとして、教養や共感できる感情の幅を養う訓練を積ませたい」と手塚さん。複雑な事情を抱えてホストの職に就いた人も多く「整理のつかない気持ちを短歌の言葉に変えて」いる面もあると語る。

　大崎さんは「ニュースや記事を見たときや、食べた物や見た景色を歌にしてみようかなって自然に思えるようになってきた」と自身の変化を振り返る。
　ここで詠まれた作品をまとめた「ホスト万葉集」（短歌研究社）も刊行され、続編が出るなど人気に。構成を手掛けた野口さんは、同書が「歌舞伎町のルポとして読まれた」と説明する。ホストたちの歌は、仕事柄「言葉への感度が高い」と素質も見て取る。

東京新聞　2021年9月11日 12時00分
https://www.tokyo-np.co.jp/article/130275