万引き総額100万円超　窃盗症だった女性がネットで告白

物を盗む衝動を抑えきれず、万引きを繰り返す「窃盗症」（クレプトマニア）。盗む前の緊張感と、盗んだ後の快感を伴うとされるが、内実は理解されていない。その窃盗症に陥ったてんまつを、インターネット上でつまびらかに発信している女性がいる。積み重ねた万引き総額は100万円以上。女性が盗みに手を染めたきっかけとは。そして回復への処方箋は。

引っ越し契機に体重20キロ減
　(前略)大学を卒業後、専門学校を経て医療機関に就職したが、1食で弁当5個、菓子パン5個を平らげては吐いた。1日の食事量はパンだけで10～20個。食費を抑えるため、弁当や総菜が値引きになる時間を狙ってスーパーに通った。仕事中も「いつ、どこに行けば値引き品が買えるか」と思いを巡らした。食費を節約することで頭がいっぱいだった。

　34歳の時に、仕事のし過ぎでうつになった。約1カ月後に復職したものの、仕事量は大幅に減らされた。「熱中していた仕事が減り、心にぽっかり穴が開いた」と振り返る。

「捨てられるなら」始まった万引き
　時を同じくして、スーパーで「ズル」を始めるようになった。買った商品に貼ってあった値引きシールをはがし、後日に持参。欲しい商品に貼って、値引き品としてレジを通過させた。展示用に包装紙を開封した「見本品」の菓子類を盗み始めた。「『見本品は捨てられてしまう、もったいない』と自分を正当化していた。スリルを楽しんでいた面もあったかもしれない」

　半年ほどたった2017年秋ごろ。二つの出来事をきっかけに「ズル」が一線を越えた。一つは、自宅近くの行きつけのスーパーが、お気に入りだった揚げパンの販売をやめたこと。もう一つは、同じパン売り場で、賞味期限の切れた菓子パンを見つけ、店員に安く売ってほしいと交渉したが断られたこと。怒りと残念さで、自らを制御できなくなったという。

　後日、同じ店で、再び賞味期限切れのパンを見つけた。「どうせ捨てられてしまうなら……」と自分を納得させ、肩にかけたトートバッグに隠した。「やってしまった」という悔悟の念はあったが、「お金を出さずに欲しいものが手に入る」という高揚感も同時に芽生えた。

　万引きは「打ち出の小づち」のようなものだった。仕事帰り、電車を途中下車してスーパーに寄って万引きし、「明日はどのお店で万引きしようか」と考えながら帰宅した。パン10個、総菜5パック、弁当を3～4人前など、一度に計約20点を盗んだこともある。「サバイバルゲームのように達成感やスリルを味わっていた。盗まずにはいられない。自分をコントロールできなかった」

「戻りたくない」過去を打ち明け更生へ
　だが、18年3月、自宅近くのスーパーで万引きした際、保安員に見つかって警察に引き渡された。その日のうちに解放されたが、翌日から再び万引きを始め、18年5月、スーパーで再び保安員に呼び止められた。起訴には至らなかったが、警察、検察で聴取を受けた。
　(略)19年4月、「とり納め」と称して万引きし、翌日に入院した。

　どうすれば窃盗症から立ち直れるのか。高橋さんによると、治療は、自分が何をしてきたか、言葉にすることから始まる。主治医や窃盗症に苦しむ当事者、自らの家族に過去を打ち明ける。すると、一人で抱え込む必要はないという安心感が得られ、二度と戻りたくないと思うようになったという。

　被害者に謝りたいと考えた高橋さんは、過去に万引きを実行した店舗と盗んだ商品の金額をリストにし、現金と謝罪文を同封して郵送した。郵送先は50店舗あり、同封した現金は100万円を超えた。半額程度は受け取ってもらえずに戻ってきたが、「一日でも早く良くなってください」との手紙を送ってきた店もあった。「優しさが逆に痛かった。万引きをしない生活を続けていきたいと思った」。約3カ月で、退院にこぎ着けた。

「依存症に完治はない」経験を発信
　「当事者だからこそできることを」と考えた高橋さんは19年12月から、サイト「クレプトマニアからの脱却」（https://kleptomania－dakkyaku.com/）で、自身の経験の発信を始めた。当事者らに向けて、「わたしのクレプトマニア経歴」「盗らないための工夫」などと題した記事を投稿している。「自分がクレプトマニアだと気づかず万引きを繰り返している当事者やその周囲に、クレプトマニアの存在を知ってもらえれば治療に向かうきっかけになる」と語る。

。(後略)

毎日新聞 2021/2/17 05:00(最終更新 2/17 07:50)

https://mainichi.jp/articles/20210216/k00/00m/040/085000c

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