- 1 : 2020/10/19(月) 18:30:22.378 ID:xF3xLOVY0
- ガタンゴトン… ガタンゴトン…
運転士「……ん?」
ガクンッ
運転士「うわああああ! 電車が脱線するぅぅぅ!!!」
ガクガクガクガクガク…
ズズゥン…
男「よし……置き石成功!」
- 2 : 2020/10/19(月) 18:31:04.822 ID:AquzT/pB0
- 女の子「この置き石のおかげで助かりました!」
- 3 : 2020/10/19(月) 18:31:25.751 ID:oX8mwOnh0
- 内房線の脱線事故か
- 4 : 2020/10/19(月) 18:32:32.395 ID:+3tLxuiY0
- 京都民「置き石は車飛び込み対策に必須どすえ」
- 5 : 2020/10/19(月) 18:34:12.293 ID:xF3xLOVY0
- ……
女(この辺りによく出没するって聞いたけど……)
女(いた!)
男「…………」ヒョイッ
男「…………」ヒョイッヒョイッ
女(石を何段も器用に積み上げてる……。登山者がよくやる……ケルン、だっけ? あれみたいに……)
女「あ、あのっ!」
男「……ん?」
女「あなたは“置き石の達人”って聞きました。そうなんですか?」
男「その通りだが」
女「!」
- 6 : 2020/10/19(月) 18:35:19.698 ID:PcycSOA5p
- 列車の脱線転覆は基本死人が出たら死刑だからな
脱線しなくて怪我人が出なくても初犯で1発実刑
執行猶予なし
- 7 : 2020/10/19(月) 18:37:23.527 ID:xF3xLOVY0
- 女「先日の電車脱線事故……ご存じですか」
男「ああ、知ってる」
女「怪我人が十数人出て、あわや近隣民家に電車が突っ込むかもという大惨事でした」
女「あなたは……あの事故に関与していますか?」
男「…………」
男「してるよ」
女「…………ッ!」
- 8 : 2020/10/19(月) 18:40:38.546 ID:xF3xLOVY0
- 女「あの電車を運転してたのは……私の父でした」
女「事故の時、頭を打って……まだ入院しています。今まで一度も事故なんて起こしたことなかったのに……」
女「これを聞いて、どう思いますか!?」
男「すまないことをした、と思ってる」
女「許せないッ!」
男「許せないならどうするんだ」
女「私があなたを成敗します! この≪のびーる棒≫で!」バッ
奇妙な模様が描かれた棒を取り出す。
- 9 : 2020/10/19(月) 18:42:18.429 ID:N3KlGKJUr
- 置き石は犯罪なので
子供がやるいたずらの中でも最上クラスよ - 10 : 2020/10/19(月) 18:43:29.092 ID:xF3xLOVY0
- 女「てやーっ!」
男(全然届いてないじゃないか――)
パコーンッ!
男「いてっ!」
女「ふふふ、どうです!」
男(なんだ、今のは……!?)
男(棒自体は長くなってないのに、急に棒が伸びたような――)
女「さあ、これ以上殴られたくなければ、自首しなさい!」
男「…………」
- 11 : 2020/10/19(月) 18:45:23.927 ID:xF3xLOVY0
- 男「ちょっと待ってくれ」
女「へ?」
男「俺はこれから用事があってな。どうしても外せない用事なんだ」
女「用事?」
男「悪いが、あんたと話すのはそれからでいいか?」
女「いいですけど……逃げないようについていきますよ!」
男「もちろんだ」
- 12 : 2020/10/19(月) 18:48:10.554 ID:xF3xLOVY0
- ―民家―
老人「おお、よく来てくれたのう」
男「じゃ、さっそく始めようか」
女(なにを始めるんだろう……?)
老人「今日はワシが勝つぞ」
男「なんの。このところ俺も腕を上げたからな」
女(勝負……? まさか、ギャンブルでもするつもり……!? 非合法の裏ギャンブルとか……)
- 13 : 2020/10/19(月) 18:51:32.496 ID:xF3xLOVY0
- 男「右上スミ小目」パチッ
老人「よーし、ワシは……」パチッ
パチッ パチッ パチッ パチッ …
女(え~!? 囲碁が始まっちゃった!)
対局は進み――
老人「う~む、今日はワシの負けじゃ!」
男「こないだの借りを返せた。またやろうな、爺さん」
女(特にお金を賭けるわけでもなく普通に終わった……)
- 14 : 2020/10/19(月) 18:54:14.774 ID:xF3xLOVY0
- 女「あのー、なぜ囲碁を?」
男「俺は置き石の達人だぞ? 囲碁ぐらい出来なきゃな」
男「まあ、俺の棋力は『ヒカルの碁』でいうと三谷ぐらいだろうが」
女「そうじゃなくて、あのお爺さんはなんなんですか!」
男「一人暮らしの爺さんだよ。ご家族を亡くして寂しいらしいから、時々囲碁の相手になってるんだ」
男「置き石の達人としてな」
女「…………!」
- 15 : 2020/10/19(月) 18:56:37.379 ID:JRXhMdG/r
- ダケさんには勝てないな
- 16 : 2020/10/19(月) 18:57:21.121 ID:xF3xLOVY0
- 少年「あ、置き石の達人さん!」
男「おう、坊やか」
少年「僕、石蹴りを教えてもらったおかげで、サッカー上手くなってクラブに入れたんだ!」
男「そうか、よかったな」
少年「うん!」
女「彼は……?」
男「友達がいなかった子でな。俺が石蹴りを教えてやったら、みるみる才能が開花して……」
女「へえ……」
- 17 : 2020/10/19(月) 19:00:24.767 ID:xF3xLOVY0
- スタスタ…
女(うーん……。なんだか、とてもこの人が電車事故を引き起こすようには……)
キャーッ!
女「え!?」
主婦「誰かー! ひったくりよぉー!」
ひったくり「へっへっへ、俺の足には誰もついてこれんぜ!」タタタッ
ひったくり「どけ! どけぇ!」ドカッ! バキッ!
通行人を次々突き飛ばす。
女「こ、こっちに来ます!」
男「…………」
女「よーし、のびーる棒で……」
男「よせ、そんなんで倒せる相手じゃない」
- 18 : 2020/10/19(月) 19:03:51.272 ID:xF3xLOVY0
- 男「ここかな」スッ…
石を置く。
女「え?」
ひったくり「今日も大儲けだ――え」ガッ
ひったくり「うおあぁっ!?」ズルッ
ドザァッ!
ひったくり「あいたたた……! こ、こけた……!」
男「カバンは返してもらうぞ」ヒョイッ
女(ひったくりの走るコースを計算して、“置き石”した……!)
- 19 : 2020/10/19(月) 19:07:40.044 ID:xF3xLOVY0
- 男「俺の用件は済んだ。家に帰る前に、あんたとの話にケリをつけておきたい」
女「えっ、家あるんですか」
男「当たり前だろ。本業は石屋だしな」
女「…………」
女「今日少しだけあなたに付き合って、分かったことが一つあります」
女「あなたは電車事故を起こすような人じゃないと感じました」
男「ああ……俺があの事故を起こしたわけじゃない」
女「それじゃ、“関与した”というのはどういう意味です?」
- 20 : 2020/10/19(月) 19:11:15.292 ID:xF3xLOVY0
- 男「俺は……“脱線した電車”に置き石したんだ。置き石して、軌道をずらした」
女「え、ってことは――」
女「もし、あなたが置き石してなければ、もっと被害は大きくなっていた……?」
男「あまり自分からいうことじゃないが、そうなってただろう」
男「死人は出てただろうし、電車は民家に突っ込んでたはずだ」
女「…………!」
女「ご、ごめんなさいっ! 私、さっきはなんてことを……!」
男「いや、俺だってハッキリ否定せず、誤解を招くような言い方したからお互い様だ」
男「それに俺の置き石がもっと上手くいってれば、怪我人すら出さなくて済んだだろう」
男「あんたは俺を殴る資格があったんだよ」
女(なんて人なの……)
- 21 : 2020/10/19(月) 19:13:20.620 ID:xF3xLOVY0
- 男「それじゃ、今日は楽しかったよ」
スタスタ…
女「…………」
女はいつまでも男の後ろ姿を見つめていた――
…………
……
- 22 : 2020/10/19(月) 19:17:25.781 ID:xF3xLOVY0
- 数日後――
女「こんにちは!」
男「あんたか。今日はどうしたんだ?」
女「この間のお詫びをしたくて……これ菓子折りです」
男「お詫びなんていいのに、律儀な人だ」
男「…………!」
男「これは……まるで鉱石みたいな菓子だな。こんなのあるんだ……」
女「インターネットで見つけて……こういうのお好きかなって」
男「大好きだよ! どうもありがとう!」
女(喜んでくれたみたい。よかった……)
- 23 : 2020/10/19(月) 19:19:19.275 ID:xSAaoXCD0
- まぁ本当はただ置き石しただけなんだけど笑
- 24 : 2020/10/19(月) 19:20:52.067 ID:xF3xLOVY0
- 女「今日のお仕事は?」
男「ある屋敷の主人が、庭に石を置きたいっていうんだが」
男「どこに置けば石が一番映えるか、俺に見てもらいたいんだそうだ」
女「面白そう! 私もご一緒していいですか?」
男「いいとも」
女「置き石師としての腕の見せ所ですね!」
男「ああ、石の魅力を最大限に引き出してみせる」
- 25 : 2020/10/19(月) 19:23:45.756 ID:xF3xLOVY0
- ―屋敷―
女「うわ……立派なお屋敷ですね!」
男「日本の古きよきお屋敷って感じだな」
主人「よく来てくれた。さっそく庭を見てもらいたいのだが……」
男「分かりました」
女「勉強させてもらいます!」
男は庭を歩き回りつつ、石をどこに置くか考える。
- 26 : 2020/10/19(月) 19:26:00.070 ID:v0eltitw0
- いいぞ
- 27 : 2020/10/19(月) 19:26:29.653 ID:xF3xLOVY0
- 男「決めた」
男「ここはどうでしょう」ゴトッ
主人「おおっ!」
女(すごい……あそこに石を置いただけで、庭の景観ががらっと変わったような印象を受ける!)
主人「ありがとう……おかげで庭の景観がぐっと引き締まったよ!」
男「いえ、これが仕事ですから」
女「…………」
- 28 : 2020/10/19(月) 19:30:28.369 ID:xF3xLOVY0
- 女「あの……」
主人「なんだね?」
女「石の近くにある砂……“砂紋”をつければもっと石が映えると思うんです」
主人「砂紋?」
女「道具で砂に線を引いて、波を描くんです」
男「そうか、枯山水みたいな感じか」
“枯山水”とは水を用いず砂や木のみで、山水を表現した庭園様式のことである。
女「いかがでしょう?」
主人「面白いかもしれん……やってみてくれたまえ」
- 29 : 2020/10/19(月) 19:33:17.306 ID:xF3xLOVY0
- 石の周辺の砂に、砂紋を描く。
女「いかがでしょう?」
男(おおっ……)
主人「ううむ……さっきよりさらによくなった!」
主人「ただ漠然と広かっただけの庭が、たった一時で一流の庭園のような風格になったよ!」
主人「今日は君たち二人が来てくれて、本当によかった!」
男「どういたしまして」
女「ありがとうございます!」
- 30 : 2020/10/19(月) 19:35:48.525 ID:xF3xLOVY0
- 男「今日はありがとう。俺の仕事を見てもらうどころか、より完璧に仕上げてもらってしまった」
女「いえ、余計なことをしてすみませんでした」
男「あの庭を見たら“余計なこと”だなんて誰もいえないよ」
男「あんたはひょっとして、なにか美術系の仕事をしてるのか?」
女「実は……イラストレーターをやってます」
男「やっぱりか」
女「よろしければ、作品をご覧になりますか」
- 31 : 2020/10/19(月) 19:39:28.162 ID:xF3xLOVY0
- スマホで自分のサイトを見せる。
女「主にトリックアートを生かした絵や商品を作ってまして」
男「トリックアートって、錯視を利用した騙し絵だよな。うん、どれも面白い」
男「あっ、もしかしてあの≪のびーる棒≫も!」
女「そうです。棒に模様を描いて、目の錯覚で棒が伸びたようになるんです」
男「独学か?」
女「いえ、ちゃんと師匠がいます」
女「あ、そうだ。よかったら今度、師匠の個展に行きませんか!」
男「面白そうだ」
- 32 : 2020/10/19(月) 19:41:22.234 ID:xF3xLOVY0
- ―個展会場―
女「こちらです」
男「おおっ、早くもたくさんのトリックアートがある」
男「どれもこれもよく出来てるな……」
男(おっと、こんなところに花が)サッ
男「と思ったら、絵か……すごいな」
女「ここに来ると、私もすっかり騙されてしまいますよ。ちょくちょく絵が変わりますし」
- 33 : 2020/10/19(月) 19:42:15.315 ID:aQjzwRtSM
- この1こどものころに置き石やってそう
- 34 : 2020/10/19(月) 19:45:14.435 ID:xF3xLOVY0
- 男「これはリアルな木目が描かれてるが、コンクリートの壁だな」
男「ここには窓があるが、実際にはなにもない。うむむむ……」
女「あ、あそこに師匠がいます! 師匠ー!」
男「聞こえてないみたいだな」
女「あれ? 師匠ー! もしもーし!」
男「ん? これ……ひょっとして絵じゃないか?」
女「あっ、ホントだ!」
「アーッハッハッハ! まんまと騙されてくれたようだねえ!」
男女「!」
- 35 : 2020/10/19(月) 19:48:29.530 ID:xF3xLOVY0
- 画家「久しぶりだ! 我が愛する弟子よ!」
女「お久しぶりです!」
画家「そちらは?」
女「置き石の達人さんです」
画家「ほっほぉ~う、置きストーン! よろしく!」
男「初めまして」
画家「せっかく来て下さったんだ。ワタシのトロンプ・ルイユをたーっぷり楽しんでいってくれたまえ!」
男「トロンプ・ルイユ?」
女「フランス語で“目騙し”という意味で、トリックアートの正式名称のようなものです」
- 36 : 2020/10/19(月) 19:49:33.916 ID:JRXhMdG/r
- すごいのが出てきたな
- 37 : 2020/10/19(月) 19:51:41.071 ID:xF3xLOVY0
- 女「師匠は日本におけるトリックアートの第一人者なんですよ」
女「今度日本で開かれる、≪ワールドアート展≫にも作品を出品するんです」
男「あの世界的な美術展の……」
画家「アッハッハ、大勢の客を騙せるかと思うと今から笑いが止まらないよ! アーッハッハッハッハ!」
男「…………」
男「ちょっと変わった人だな」ボソッ
女「まあ……なにしろ芸術家ですから」ヒソヒソ
- 38 : 2020/10/19(月) 19:54:32.362 ID:xF3xLOVY0
- 男「お師匠さんの目から見て、彼女はどうですか?」
画家「ワタシはかつて弟子を一人破門して、それ以来弟子は取らないと決めてたのだけど」
画家「彼女の熱意に負けて、弟子入りを許してしまった!」
画家「よく努力してるし、素質もある! いい弟子を持ったよ、ワタシは!」
女「師匠……!」
男「よかったな」
女「はいっ!」
画家「なーんてね、トリックトーク! アーッハッハッハッハッハ!」
女「のびーる棒で殴っていいですかね」
男「やめとけ」
- 39 : 2020/10/19(月) 19:57:26.549 ID:xF3xLOVY0
- ひと通り展示を見て――
画家「最後に……ここに石ころがある」
男「!」
画家「置き石の達人なら、これをこの展示場のどこに置く? どこに置けばこの石が一番輝く?」
男「…………」
男「ここ……ですかね」コトッ
画家「!」
画家「なるほど……“置き石の達人”といわれるだけのことはあるようだ」
画家「今の置き方、置く位置だけで、君がどれだけの研鑽を積んできたかがよぉく分かった」
画家「このワタシが久々にマジフェイスになってしまったよ」
男「ありがとうございます」
女(ううむ、なにかレベルの高いやり取りが繰り広げられた、ってことだけは分かる!)
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